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陰謀論的な思考

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このところ「陰謀論的な思考」について考えている。

「ちょっと世の中がおかしなことになっている。
きな臭い感じがする。
陰謀論的な思考について考えたほうがよいぞ。」
頭の中の小人たちがそう囁くのだ。

陰謀論的なことは、第一次トランプ政権のころから気になっていた。
「Qアノン」とか「オルターナティブ・ファクト(もう一つの事実)」という言葉を聞くようになった。
アメリカでは国民が、目の前で起こっている一つの出来事を、同じ事実として認めることができないようだ。
人々の間に分断が起こり、対話よりも攻撃に向かう。
2021年にはアメリカ合衆国国会議事堂襲撃事件が起きた。

ばかげた陰謀論を信じた人が、おかしなことをやっているだけ。
そんな単純な話でもなかろうと思った。
そもそも、陰謀論を信じている人は、自分が信じる内容が陰謀論だと理解した上で、それを信じているのではない。
それが事実だから信じているのである。
いや、信じてすらいない。たんなる事実なのだから。
太陽は東から昇り、西に沈むのと同じだ。

アメリカは大変なことになってきたと思っていたら、日本でも似たようなことが起こり始めた。
人々が敵味方に分断され、攻撃的になり、対話よりも暴力という社会は良くない。
安心してビジネスに勤しむこともできない。

そういうわけで、「陰謀論的な思考」について考えようと思い、『となりの陰謀論』(烏谷昌幸著/講談社現代新書)を読んだ。

となりの陰謀論 (講談社現代新書 2778)
トランプは「闇の政府」と戦っている!?オバマもバイデンもすでに処刑された!?陰謀論はどこで生まれるのか。そして、なぜ信じてしまうのか。現代世界を蝕む病の正体を、気鋭のメディア研究者が明かす!「陰謀論を生み出し増殖させるのは、人間の中にある「…

アメリカの陰謀論をいくつか紹介する。

・地球平面説 地球は平たいのに、政府、企業、科学者が揃って球体だと装っている説

・爬虫類人説 支配階級は次元を超えて移動できる変身能力のある爬虫類のエイリアン種族だという説

・ゴム人間説 Qアノンの陰謀論。バラク・オバマ、ヒラリー・クリントンなど、自分達に敵対する著名人はすでに逮捕、処刑されている。我々が見ているのは、本物そっくりに作られたゴム人形だという説

・地球温暖化説 気候変動の原因は人間が放出した二酸化炭素ではない。温暖化の原因を二酸化炭素だと喧伝する裏側には何か別の意図が潜んでいるという考え方

・UFO隠蔽説 アメリカ政府は宇宙人もしくは墜落した宇宙船と接触しているが、隠蔽しているという説

・JFK説 犯人のオズワルド以外にも、ケネディ大統領の暗殺に関与していた人々がいたとする説

・大手製薬会社説 大手製薬会社は実際には不要な薬を人々に売ることで、利益を最大化させようと陰謀を巡らせているという説

どのように感じるだろうか。
私はこんな風に感じた。

「地球平面説」「爬虫類人説」「ゴム人間陰謀論」。これらは笑止千万。そんなことあるはずなかろうという感じ。

「地球温暖化説」。二酸化炭素以外の原因を考える人がいてもおかしくないと思う。しかし二酸化炭素が原因でないと言い切ることには疑問を感じる。

「UFO隠蔽説」や「JFK説」。私たちに公開されていない情報はあるだろう。それが陰謀と結びつくかは別だと思う。
日本の安倍元首相銃撃事件でも、全ての情報が公開されているとは思わない。しかしそれが陰謀論かは別だろう。

「大手製薬会社説」。全くの陰謀論とは言い切れないと感じる。製薬会社と大学が不正データの改竄を行なっていた事件が、日本でも実際にあった。利益優先の資本主義社会では十分に起こり得る。

いくつかの陰謀論を並べて気付くことがある。
陰謀論と事実は二つに分かれ、対極に位置しているわけではない。
陰謀論と事実の間は、グラデーションのようになっている。
「そうかもしれない」と部分的に納得できる灰色の話があるのだ。

となると、「陰謀論的な思考」と「事実を認める思考」は異質なものではなく、両者の思考には共通性や連続性があるかもしれない。

同書では陰謀論について次のように書いている。

・陰謀論とは、出来事の原因を誰かの陰謀であると、不確かな根拠をもとに決めつける考え方である。

・陰謀論を生み出し増殖させるのは、人間の中にある「この世界をシンプルに把握したい」という欲望と、何か大事なものが「奪われる」という感覚である。

ここから3つの点を抜き出す。

1、出来事には原因がある。それは私が知らない誰かの考えによって引き起こされている。

2、私たちの「この世界をシンプルに把握したい」という欲望が陰謀論を生み出し、増殖させている。

3、「何か大切なことが奪われている」という不安が、陰謀論を生み、増殖させる。

まずは、3について。
陰謀論は、私たちの「不安」に付け込む。
だから、戦争や震災などの災害時、コロナなどのパンデミックの時、あるいは将来が見通せない不況時などに発生しやすい。

日本は失われた30年と言われ、先進諸国で唯一、経済成長が起こっていない国だ。
かつての豊かさが奪われ続けているとも言える。
日本人の豊かさを奪っているのは誰なのか。
そう問う人たちが出てくるのも自然なことかもしれない。
陰謀論が生まれてもおかしくない状況と言えるだろう。

1と2を合わせて考えてみる。
「出来事に原因がある」というのは一般的な思考だ。おかしなことはない。
しかしそれを「誰かの考えによるものである」と言い切ることはできない。

人は思いつきや、大した考えもなく行動するものだ。
あるいは幾つもの偶然が重なって起こる出来事もある。
出来事の背後には、誰かの明確な意図があるとは限らない。

「出来事に原因」があり、背後に「誰かの考え」があり、そこに「この世界をシンプルに把握したい」という欲望が加わる。
すると次のようなシンプルな思考法が浮かび上がる。

Aという出来事は、Bという1つの原因によって起こっている。
Bを引き起こしているのはCという人物や集団(あるいは考え方)だ。
だからCという原因を取り除くことで、正しい状態を取り戻すことができる。

これが陰謀論的な思考の根本にあると言える。

筆者によれば、時代劇も陰謀論的な思考と言えるそうだ。

市井の人々の生活が苦しい。物価が高く食べ物も満足に買えない。
ちゃんと働いているのに給金を誤魔化される。
不当な嫌がらせをし、暴力を振るうごろつきが幅を利かせている。
世の中が乱れている。

なぜか。一部の人が法や掟を守ろうとしないからだ。
法を守らせる役人も不正を見逃している。
背後で、悪代官と悪徳商人の越後屋が結託し、権力と富を手に入れるための悪巧みをしているからだ。

そこで、時代劇では正義の味方が現れる。
悪代官と越後屋を切り捨てる。
正義は達成され、市井に平和が訪れ、人々は笑顔で満たされる。

シンプルで分かりやすい話だ。気分もスッキリする。
とはいえ、これは時代劇というドラマの中の話だ。
現実の世界では、出来事はもっと複雑である。

そう、現実の出来事は複雑だ。
では私たちは、現実に見合った複雑な思考をしているだろうか。

例えば、仕事で複数人が関わるプロジェクトに取り組んでいた。
そこで何らかのトラブルが発生したとする。
まず行うのは、そのトラブルがプロセスのどこで起こったか、それに誰が関わっていたのか、それをはっきりさせることだ。
問題箇所の特定だ。

ある人物がトラブルの当事者であるとわかる。
すると、その人物にトラブルの原因を特定することを求める。
その人物はトラブルに至るプロセスを振り返りながら、どのポイント、どの考え、どの行動が原因であったのか特定する。

原因が特定されれば、その原因を取り除く(再発を防止する)ための方法を考える。そしてそれを実施することになる。

思考の型としては、陰謀論的な思考と同じだ。
出来事が起こる。原因を探る。原因を引き起こした問題点を特定する。それを取り除く。

陰謀論的な思考と同じだからダメだということではない。
このような考え方でトラブルの再発を防げることは多々ある。
原因を曖昧にし、「次回は注意して頑張りましょう」との掛け声で乗り切る精神主義よりもよほど良い。

陰謀論的な思考と、一般的な原因追及思考の型は変わらない。
それは私たちの自然な思考と陰謀論的な思考の近さを示している。
陰謀論の荒唐無稽な内容に注目すれば、距離を感じる。
しかし思考の型に注目すれば、陰謀論と距離はない。

だからこそ、多くの人が陰謀論だと気付かずに、陰謀論にはまってしまうのかもしれない。
ある出来事を事実だと思い、ふつうに考えていたら、いつの間にか陰謀論に陥っていた。
私自身がそうなる(すでになっている)可能性は否定できない。

陰謀論的な思考に、どのように向き合えば良いのだろうか。

一つには、シンプルで単線的な因果思考とはべつの思考法を身につけることだ。
出来事には原因があり、その原因は誰かの考えによるものだ。
だからその原因を取り除けば出来事は良い状態に戻る。
そんな思考とは異なる思考だ。
個人的には、仏教の「縁起」という考え方が有効だと思う。

もう一つは、不安との向き合い方を身につけることだ。
陰謀論は「不安」な人々の心に入り込んでくる。
まず、不安とは何かを理解することが第一だ。
不安の原因は社会にあっても、不安そのものは自分の中で起こる。
外側の社会と、自分の内側、その両方に丁寧に向き合うことが必要だろう。

どちらにせよ、かなり手間のかかる仕事になりそうだ。
というわけで、今回はこのあたりで一旦止める。
「陰謀論的な思考」を巡る問いを確認したというところだ。
この先、考え続ける力が私にあるのか。
それが試されることになる。

その一方で、ふと思ったりもする。
案外簡単に、生成AIがこの問題を解決してくれるかもしれない。
これから先、わからない出来事があれば、誰もがすぐに生成AIに答えを尋ねるだろう。
AIの答えを受け入れている人達に、異を唱える人は少ないだろう。

そうなれば、人々は同じ一つの事実を共有することになる。
正しくても、間違っていても、AIの言葉が一つの事実となる。
人々が一つの事実を共有すれば、そこに分断はないのかもしれない。

「でもそれは、ディストピアのような気もするぞ」
頭の中で小人がふたたび囁いている。

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