だいぶ前のこと、ラジオで不登校児童の支援についての話を聞いた。
「不登校児童に、親は何をすれば良いのか。」
そんな相談だった。
「子どもの話を聞くことです」
専門家はそう答えた。
多くの親は子どもの話を聞かない。
子どもに話を聞こうとする。
「それでは子どもは、話してはくれません。」
子ども「に」話を聞く。
子ども「の」話を聞く。
「に」と「の」の違い。
子ども「に」話を聞く。
それは、親が聞きたいことを、子ども「に」尋ねることだ。
知らないこと、気になることを質問し、答えを求める。
聞いて、親が理解し、親が納得し、親が安心する。
子どもを心配していたはずが、子どもを心配する自分の心配が、中心になっている。
子ども「の」話を聞く。
それは、子どもの言葉を、子どもの内なる声を聞くことだ。
一人で抱え込むには辛いこと。
人には言いにくいこと。
うまく言葉にならないモヤモヤしたもの。
そんなものが、言葉になるのをじっと待つ。
待ちながら、子どもについて想像する。
どんな状況を、どのように感じ、どのように生きているのか、と。
待つことで、子どもの口から言葉が出てくる。
その言葉を丁寧に受け止めていく。
そういうことが、不登校の子どもには大切なのだそうだ。
子ども「に」話を聞くのではなく、子ども「の」話を聞く。
「家族にも、上司部下の関係にも当てはまります。」
そんなふうに専門家は言っていた。
なるほど、その通りだと思った。
でもビジネスでは、部下「の」話ばかり聞いていれば良いのか。
私の中の天邪鬼が疑問の声を上げる。
部下「に」話をきく。
部下「の」話を聞く。
どちらも必要だと思った。
子ども「の」話を聞くことが大事なのは、不登校というイレギュラーな状況だ。
ビジネスの日常では、どちらも必要になる。
部下「に」話を聞く。
基本的には「報連相」を中心にしたコミュニケーションだろう。
組織や業務を滞りなく運営するには、必要な情報がある。
それらを誤解なく、効率的にやり取りする。
雑な確認、曖昧な質問、ふわっとした共通了解は避けたい。
聞きにくい質問や、厳しい確認も大切になる。
大事なのは目的の共有だ。
組織や業務を滞りなく運営するために行う。
上司の個人的な興味や関心を満たすため、自己保身のため、そんな目的で、部下「に」話を聞くことはよくない。
部下「の」話を聞く。
どんな時に必要なのだろう。
子どもの話では、「不登校」というイレギュラーな状況だった。
ビジネスでも、部下「の」話を聞くのは、イレギュラーな状況なのか?
メンタル不調で出社できない部下、そんな部下「の」話を聞くことなのか?
あまりお勧めできない気がする。
そういう話を聞くには、ある程度の専門的な知識が必要だろう。
下手な聞き方をしたら、状況が悪化するかもしれない。
ちゃんと聞けたとしても、上司への負担が大きすぎるかもしれない。
どんな時に、部下「の」話を聞くのがよいのか?
イレギュラーを未然に防ぐため、そんな考えに至る。
ビジネスシーンでは、「1on1」がそれに当たりそうだ。
(1on1の主役は部下、上司が聞きたいことを聞いてはいけない。)
定期的に時間を設けて、部下「の」話を聞く。
そこでは、生産性や合理性、効率性などはいったん傍におく。
目標達成のための未来思考、目的手段関係での合理的思考をちょっと止める。
日々の出来事への自分の感じ方を再確認する。
自分はそのとき何を感じ、何を考えていたのかを思い出す。
振り返り、思いを巡らし、それらを言葉にする。
忙しさを理由に見捨ててしまった出来事。
相手や自分と向き合うことから逃げた出来事。
言い過ぎたり、やり過ぎてしまった出来事。
ビジスネには無駄でも、自分にとっては大切だった出来事。
大した価値は生み出さなかったけど、気持ちが前向きになった出来事。
ビジネスの時間の中で、置き去りにしてしまった出来事。
置き去りにすることで、自分の何かが失われていくような出来事。
取り戻すことで、内側から力が湧いてくるような出来事。
そういう大切なものを、言葉にして取り戻す。
それが、部下「の」話を聞く、ということだろう。
「何か話したいことはありますか?」
1on1の冒頭で上司が口にする言葉は、そんな時間の入り口であるのが望ましい。
ちゃんと、人「に」話を聞いているだろうか?
ちゃんと、人「の」話を聞いているだろうか?
自分「に」話を、ちゃんと聞いてくれる人はいるだろうか?
自分「の」話は、ちゃんと聞かれているだろうか?
自分は、自分の「話」を、ちゃんと聞こうとしているだろうか?
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