「本州で暮らしながら札幌の仕事を探した」という記事を書いたのが2025年3月。
そこでハローワークの良い点として挙げた職業訓練について(かなり今更ながら)振り返りたいと思う。
前日譚
遡ることウン年前。
それまで勤めていた職場を退職した私は、さっそくハローワークで雇用保険の手続きを済ませた。
「失業保険(雇用保険)を受給するためには、一定期間ごとに最低2回以上の求職活動実績が必要です」
窓口ではだいたいそのような説明を受けた。
ここでの「求職活動」とは就労の意思を客観的に示せるような具体的な活動のことだ。求人への応募はもちろん、職業相談、職業紹介や各種セミナーの受講などが該当する。
そういうわけで、以降は求職活動実績をつくるためにハローワークへ定期的に通うことになった。そのうち、エントランスに所狭しと貼り出されている求人票の「向かい側」にも視線が向くようになった。
「向かい側」にあったのは、職業訓練の開講を知らせるポスターだった。
それまで職業訓練の存在を知らなかったわけではないが、なんとなく電気電子系エンジニアやCADオペレーター、事務職を目指す人向けのものだと思い込んでいた。
「Webデザインコース? そういうのもあるんだ!」
当時ふんわりとクリエイティブ職に憧れていた私に衝撃が走った。
これってもしかして、関心のある分野を無料で学べるうえに、求職活動実績までつくれる一石二鳥のチャンスなんじゃないか?
(余談だが、最近の職業訓練には生成AIを取り扱うものもあるらしい。時流に合わせてどんどん変わっていくんだなあ)
職業訓練、受講してみたい!
と思い立ったはいいものの、よくよく確認してみると該当コースの申込締切は数日前。間に合わないどころか明らかにオーバーしている。直近で類似のコースもあったが、そちらは職業訓練校が遠い。普段暮らす街から通うとしたら車で2時間強はかかる。ペーパードライバーの私にはなかなか踏ん切りがつかない。
ほかに良い手はないものか……と労働局のWebサイトにかじりついていると、あるではないか、eラーニングのコースが!(職業訓練ってeラーニングもアリなの!?と二度目の衝撃)
訓練実施施設は東京だったが、eラーニングならまったく問題にならない。さっそく必要書類を用意して、ハローワークに申し込みに行った。
ただ、申し込んだら必ず受講できるというものではないらしい。私が希望したコースでは選考試験としてオンライン面接があった。
「現時点でも定員の2倍は応募があるので、倍率は高いほうだと思います」
面接、頑張ってくださいね、と励まされて窓口を後にした。
受講できない可能性については一切考えていなかったので、内心かなりビビッていた。
いざ、選考面接
服装に指定はなかったが、念には念を入れてスーツ姿で挑んだ。
「パソコンは所持しているか」「訓練に積極的に取り組めるか」などのイエス・ノーで答えられる質問は割愛するとして、おもな質問は下記のようなものだった。
- このコースを受講したい理由
- Webデザインを学びたい理由
- 現在の就職活動の状況
- 訓練で学びたいこと
- 将来どんな職業に就きたいか
印象的だったのは「フォルダとファイルの関係性を、おもちゃ箱とぬいぐるみに当てはめて説明して」というものだ。おそらくパソコンの基本的な知識を問う意図があったのだろうが、ほかと毛色の違う質問にドキリとした。
「おもちゃ箱がフォルダ、ぬいぐるみがファイルです」
「おもちゃ箱にぬいぐるみをしまうように、フォルダにファイルをしまいます」
……とかなんとか答えたような。
幸い、結果は合格。晴れて職業訓練生になることができた。
訓練内容と感想
私が受講したのはWebデザイン・マーケティングのeラーニングコースだ。
訓練期間は4か月弱。Webデザインの基礎からWordPressの導入まで幅広く学んだ。
学習環境
見て、聞いて、読める教材
おもな教材は講義動画だが、教科書としてNotionで作成されたノートも用意されており、見て(聞いて)学習したいタイプ、読んで学習したいタイプ、どちらも学習しやすい環境が整えられていた。
サーバーが無料貸与
訓練生ごとに容量1GBのサーバーが用意されており、演習で制作したWebサイトをアップロードして普段使いのブラウザで確認したり、WordPressの導入を実際のサーバーで試したりすることができた。
格安を謳うレンタルサーバーは複数あるが、最安プランではWordPressが導入できない等の制約があったり、長期契約を前提に月額費用を抑えているパターンも多く、おためし感覚で始められるかというと微妙なところがある。
このとき貸与されたサーバーは一般的なレンタルサーバーと比較すると容量が格段に小さいが、シンプルなWebサイトであれば複数個アップロードしても問題なかった。訓練終了後も申請すれば半年間は引き続き利用できたので、Webデザイナーの就職活動では必須とも言えるポートフォリオサイトも、当分の間はサーバー費用の負担なく公開し続けることができた。
「Adobe Creative Cloud」が無料貸与
訓練生ごとに「Adobe Creative Cloud」のアカウントが発行され、訓練開始日から20種類以上のアプリケーションを利用できた。
「Adobe Creative Cloud」はPhotoshop、Illustratorをはじめとするプロクリエイター御用達のツールキットだ。こちらはレンタルサーバーと比較しても月額費用がお高め(2026年7月現在、月々支払いなら月額14,480円!)なので、失業している身にはかなり有難いサービスだった。
ちなみに、訓練期間中に個人契約すると契約期間中は学生割引価格が適用されるらしい。職業訓練を機に「Adobe Creative Cloud」を使い続けるなら、活用しない手はないだろう。
チャットでいつでも質問OK
講師と訓練生全員が参加するSlackに招待され、24時間いつでも質問できた。質問したタイミングによっては回答まで時間がかかることもあったが、毎回丁寧に対応してもらえたと感じている。
訓練生同士が交流する場面はほとんどなかったが、ある程度学習が進んできた段階で制作物を共有し合ったときには、同じ講義を受け、同じテーマで制作しても作品に個性を感じられることが大変興味深く、良い刺激をもらえた。
(これまた余談。最近はフルオンラインのコースというものも存在するようだ。フルオンラインとは通所形式の訓練実施会場だけをオンラインに置き換えたような形式で、時間割に沿ってリアルタイムで受講する点、講師やほかの受講生とその場でコミュニケーションを取れる点がeラーニングと異なるらしい。受講形式が増えたということは、より間口が広がったということだ。職業訓練はどんどん進化している)
学習内容
おおまかな科目は下記のとおり。
1ヶ月目:Webデザイン基礎(1週間)、HTML・CSS基礎(3週間)
2ヶ月目:Adobe XD基礎(2週間)、Javascript(JQuery)基礎(2週間)
3ヶ月目:Illustrator基本操作(2週間)、Photoshop基本操作(2週間)
4か月目:レスポンシブデザイン基礎(1週間)、WordPress基礎(1週間)、マーケティング基礎(1週間)
1ヶ月目、2ヶ月目……と記載したのは、学習順序が定められていたからだ。たとえばWebデザイン基礎とWordPress基礎を入れ替えたり、HTML・CSS基礎を飛ばしてJavascript(JQuery)基礎を学習することはできない。好き嫌い・得意不得意にかかわらず横断的に取り組まなければならないのはなかなか大変だったが、Web制作の流れをざっくりと把握できる良い機会だったと思う。
また、学習順序は固定されているものの、学習時間をいつ・どのように確保するかは自分でコントロールできるので、「毎日コツコツ進めよう」も「学習する日、休息する日を分けよう」も実現できる。私の場合はまとまった時間を作って集中的に取り組むようにしていた。
そのほかのイベント
学習の合間にちょっとしたイベントもあった。
開講式/修了式
開講式は訓練開始日、修了式は訓練終了日にリアルタイムで実施。訓練生全員と顔を合わせたのはこの2回きりだった。
修了式のミーティング画面が心に残っている。開講式のときよりもいくらか人数が減っていて、それが欠席なのか中退なのか理由はわからないが、わからないなりに一抹の寂しさを覚えたからだ。それまで交流する機会はほとんどなかったものの、時折Slackで名前を見かけているうちに、自然と仲間意識のようなものが芽生えていたらしい。
対面指導
週に1回、リアルタイムで実施。時間帯はある程度希望できた。時間帯が重なった訓練生とは出欠確認のWebミーティングで顔を合わせることになるが、訓練生間でコミュニケーションを取る場面はなかった。
出欠確認が終わったら個人面談だ。順番が来ると講師と自分だけが参加するミーティングに招待され、訓練の進捗状況についてアドバイスをもらったり、講義内容について直接質問することができる。
誰かが面談をしている間、ほかの訓練生は出欠確認のミーティングに接続したまま、各々の学習を進めるなどして静かに待機する。全員の個人面談が終わったら解散だ。
習熟度確認テスト
科目(単元)ごとに1回実施。直前までに学習した科目の総括的な内容が問われ、合格点を下回ると再テスト、合格するまで次の科目に進めない仕組みだった。
筆記テストのほか、演習科目で制作したものを提出するパターンもあったため、自習をおろそかにしているとつまづくだろう。
キャリアコンサルティング
月に1回、リアルタイムで実施。事前にジョブ・カードを作成して臨み、記入内容に基づいた就職支援を受けた。
なお、ジョブ・カードとは厚生労働省が様式を定める記入式シートで、キャリア・プラン、職務経歴、職業能力証明を可視化するためのツールである。
【参考:マイジョブ・カード】https://www.job-card.mhlw.go.jp/
職業人講話
月に1回実施。講話といってもリアルタイムではなく動画を視聴する形式なので、時間や場所には縛られなかった。
実際にクライアントワークで活躍しているWebデザイナーが、プロの視点からディレクション、企画・提案、運用・契約等をテーマにWebサイト制作の実態を掘り下げるという内容で、良くも悪くもクリエイティブ職のシビアさを突き付けられた。
ハローワーク来所日
実施頻度は月に1回。管轄のハローワークで職業相談などの就職支援を受けた。
訓練日付が指定されており、訓練期間中と訓練終了後の3か月間は原則ハローワークに通う必要がある。無断欠席はペナルティがあるので注意だ。
おわりに
結論、受講してよかった。
特に良かったと感じているのは下記3点だ。
- 受講料が無料で、サーバーやAdobeアプリなど学習に必要なツールもひと通り揃っていたので、コストを考えずに学習に集中できた。
- 学習するタイミング・ペースをある程度コントロールできるので、無理なく継続できた。「継続できた」という実績が、「仕事にできる」という自信に変わった。
- 特に制作工程を広く浅く学んだことで、おおまかな作業の流れを理解できた。現職では制作工程からのスタートだったので、「これ、○○ゼミでやったところだ!」といった心持ちで取り組めた。
その後、就職活動を経てWeb制作に関わるようになったが、職業訓練で学んだことは現職と地続きになっているという実感がある。
職業訓練、かなりいい。
失業期間中の選択肢として、ぜひ検討してほしい。
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