はじめに:偶然重なった三つの風景から
ここ数か月間、なぜか「地域」について考える出来事が続きました。
違う目的で訪れた土地、何気なく耳にした話、渡された一冊の本。
たまたま触れた三つの「地域」の風景が、気がつけばA.Tの中で一つの線で繋がりました。
- 三笠市
- 長沼町
- 島根県 海士町
地方創生というと、どこか遠くで語られる政策の話のように感じます。
でも現地の空気に触れ、人と話し、景色を眺めてみると、それはもっと近くて、毎日の暮らしや選択の積み重ねの話であると感じます。
ここからは、A.Tが同じ時期に出会った三つの風景と、そこから考えたことを綴ります。
1.ひとつの高校と静かな街のあいだで感じたこと
三つの地域の中で最初に心がとまったのは、北海道三笠高校の活動です。
レストラン運営、企業との商品開発、SNSでの発信…。
地域とつながりながら未来をつくろうとする熱量があります。
メディアなどでも何度も取り上げられていますし、外へ向けた発信も確かに続けられています。
そのことを事前に知っていたからこそ、現地を訪れたときに目にした静けさとのギャップが、強く印象に残りました。
三笠市を訪れた日は平日で、レストランは営業しておらず、向かいにある校舎の前は穏やかな時間が流れていました。
もちろん、これは活動が停滞しているという意味ではありません。
休日や長期休暇には多くの人が訪れ、賑わう日もあるはずです。
それでも、その瞬間の静けさは、遠くから見ていた熱量と少しだけ離れているように感じられました。
街を車でめぐると、その感覚はより明確になりました。
通りには人影が少なく、街全体がゆっくりと時を刻んでいるようでした。
平日の日中という条件を差し引いても、高校生のエネルギーとの温度差のようなものは残りました。
一方で、街の取り組みが止まっているわけではありません。
三笠市では、水素エネルギー事業の実証実験など、民間企業と連携した挑戦が着実に進んでいます。
ただ、こうした良い動きが点として存在している一方で、高校生の熱量と、街の日常が一本の線としてつながりきっていない、そんな微妙な距離を感じたのも事実でした。
そして、その距離を意識した瞬間、ふと別の疑問が浮かびました。
発信は続いている…でも、その活発な動きは外の人たちにどれくらい届いているのだろう?
街を歩きながら、そんな素朴な問いが残りました。
そしてもうひとつ、街を歩いていて気になったことがあります。
高校生が気軽に過ごせる「放課後の居場所」が、ほとんど見当たらなかったことです。
授業が終わったあと、彼らはどんな場所で時間を過ごしているのだろう。
地域の「日常」や「つながり」は、本来こうした場所から育まれるのではないか…。
そんな思いが自然と湧いてきました。
地域ごとに抱える課題は違います。
ただ、この街で感じたのは、三つの層が並行して存在しているということでした。
高校生たちが挑戦し続けている「動」
街がゆっくり時を刻む「日常」という「静」
動も静も外へ十分に届ききっていない「課題」
この三つが、つながりそうでつながりきっていない。
その重なりの隙間にある“見えない距離”を前にして、A.Tは心のどこかでこう思わずにはいられませんでした。
せっかくの取り組みが、もっと日常になり、もっと外に届けばいいのにな。
2.揺れ動く心の行き先―地方における「若者の気持ち」のリアル
別の日に、長沼を舞台にした短編ドラマを観ました。
登場する高校生たちは、近くに遊ぶ場所もなく、休日は家の農作業を手伝う日々を送っています。
「卒業したら札幌に出たい」
その言葉には、どこか淡い憧れと現実味が混ざり合った切実さを感じます。
地域に根ざした暮らしと、外の世界へ期待。
その間で揺れる気持ちは、とても自然で、誰も責めることのできない、とてもまっとうな感情です。
ただ一方で、こうも思いました。
「戻りたい」と思える場所であるには、何が必要なんだろう?
ドラマはフィクションですが、そこで描かれた迷いや期待は、地方で暮らす若者たちの現実と遠いものではないと感じます。
家族の手伝いをする生活。
友達と集まる場所がなかなかない現実。
進学や就職の選択肢が限られている状況。
地域で暮らすことを選ぶ若者もいれば、外へ出る若者もいる。
どちらも、その人なりの正しい選択だと思います。
A.Tが長沼の風景を思い返すたびに浮かぶのは、「地域で育つ若者の心の揺れ」そのものが、地域の今を映す鏡なのでは?ということでした。
そこで描かれる高校生たちの姿からは、どことなく三笠の高校生を思い浮かべずにはいられないA.Tなのでした。
3.離島の物語が教えてくれた「人」という最大の資源
弊社代表が島根県の海士町を訪れたあと、熱が冷めないまま「読んでみてほしい」と手渡してくれた本があります。
『未来を変えた島の学校』です。
読み進めるうちに、三笠や長沼で感じたことが、ひとつの線でつながっていきました。
島前地域(隠岐島のうち、海士町を含む西側の群島)では、「高校をただ存続させる」のではなく、「ここで育つ子が、この場所を誇れるようになる学び」をつくろうと、大人たちが長い時間をかけて奮闘してきました。
そこにあったのは、観光資源や施設ではなく、「人こそが最大の地域資源である」という確信でした。
島で学べるのは、学力だけではありません。
どんな場所でも生き抜く力、課題に向き合う強さ、自分の未来を自分で選ぶ姿勢、仲間とつながる経験。
そうした「生きるための土壌」をつくってきました。
そして何よりも大切だと感じるのが、「一度離れても、また帰りたいと思える幼少期を過ごせる環境」。
これこそが、地域の魅力をつくっていくのだと気づかされました。
今では全国のさまざまな地域が、この取り組みをロールモデルとして実践しているそうです。
ちなみに北海道でも「高校魅力化」の動きが広まっています。
地域・教育魅力化プラットフォームなどが中心となり、地域と高校が協力しながら、探究学習や実践的な学びを通して「地域とつながる学校づくり」を進めています。
おわりに:三つの地域が重ねて見せてくれたもの
三つの地域は、地理も規模も状況も異なります。
それでも、そこで感じたものは驚くほど似ていました。
- 光と静けさのあいだにある「見えない距離」
- 若者が揺れながら育つ現実
- 地域の未来は「人」から始まるという真実
私が見つけたのは“答え”ではなく、“問い”でした。
それは――良い取り組みを続ける力と、その取り組みが日常へと溶けていくためのつながりを、どうやって育てていくのか。
そしてもう一つの問い。
地方創生とは、結局のところ誰のどんな未来を育てる営みなのか。
正直、A.Tはまだ、この課題に深く踏み込む覚悟までは持てていません。
ただ、自分なりにできることがあるとすれば、まずは現地に足を運び、人の声を聞き、空気を吸い込み、その場所の温度を自分の体で感じることからだと思っています。
地域の未来は、「誰かが何とかしてくれるもの」ではなく、「誰かが誰かに出会うこと」から始まるのかもしれません。
最近、そんなことを考えています。
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